その2です。
最初からごらんになりたい場合、トラックバックリンクをクリックしてください。 ------------------------------------------------------------- 春をさがしに1 春をさがしに2 春をさがしに3 春をさがしに4 その家のドアまでは、最初に見たよりもうんと時間がかかった。トトだって初めのうちは同じ所を何度もぐるぐるまわっているのに気が付かないで、ようやくコンパスを見て真っ直ぐに歩けるようになったくらいだったよ。 「もう引き返そう」 ついにそんなことを考えはじめたとき、ようやくトトの前にドアが現われた。 「すみません、誰かいますか」 トトは三回軽くドアをノックしたが、家の中からは何の物音も聞こえない。 ちょっと待ってからトトは思い切って、ノブを回す。 「すみません、誰かいますか」 恐る恐る家の中に入ったトトの後ろで、さっきのドアがバタンと閉まった。 部屋の中はランプもついていないのにほのかな青白い光りに包まれていて、床は何かにつかまらないと歩けないほどに、つるつるに凍り付いていた。玄関は、もう一つ奥の間に続いていて、そこからひゅうひゅうと冷たい風が吹き出していた。 ふと、奥の間から悲しそうな声が聞こえたような気がする。 「そこに誰かいるの?」 何度も転びそうになりながら、ようやく奥の間にたどり着いたトトが見たもの。それはとても不思議な光景だった。 部屋の中はいたる所、氷やつららでいっぱいで、暖炉には青白い炎がめらめらと揺れている。そして、正面のソファーには一人の女の子が、粉雪のようにさらさらした感じの純白のコートをまとい、うつむいて泣いていた。彼女がずっと黙り込んだままなのでトトは思いきって話しかけてみる。 「トトというものです。勝手に入ってしまってごめんなさい。でも君はどうして泣いているの?」 女の子は自分の足首のところを指でさした。そこには何重にも巻かれた氷の鎖がへびのように絡み付いていて、その反対側の先は凍てついた床に埋まり、どこまで続いているともしれない。 「お願い……。この前のことはもう十分反省しているわ。だからここから出して」 「ぼくは君の助けになりたい。でも君はなにをしたの?」 その時、初めて女の子が顔を上げてこちらを見た。 「……あなたは冬の精霊の使いではないのね。そんな人がここに来るなんて初めてよ。私は雪の魔女、シルファ。冬の精霊の下で雪を降らせるのが仕事なの。歓迎してあげたいけど、こんな状態で……。ごめんなさい」 シルファは立ち上がり、自分のコートをそっとトトにかけた。上着を脱いだ彼女はこんな寒い所にしてはあまりにも薄着にトトには思えた。 「いいよ」 あわててそれを返そうとしたトトに、彼女が横に首を振る。 「雪も寒さを防ぐ衣になるのよ。それに私は雪の魔女。これぐらいの寒さは何ともないわ。ただ、この足元の鎖だけは私には防げない。徐々に私自身を凍り付かせて、永遠に溶けることのない氷に返してしまうけれど」 トトは何がなんだかわからなくなってきた。 「こんなにやさしい君が、なんで、そんなひどい目にあわなければいけないの?」 トトの言葉に、シルファはまた下を向いてしまった。彼女の目からは湿ったぼたん雪がはらはらとこぼれ落ちているようだった。 「家の中に雪を降らそうとしたのよ。……病気で外に出られないこの家の子が雪が見たいって言ったから。でもそれは使ってはいけないとても難しい魔法で、それをうまく使えなかった私はこの家の人を追い出してしまっただけはなく、この地方に自分でも止められない吹雪を起こしてしまった……」 「だからって……」 「私は、してはいけない事をしてしまったの。これはその事に対する冬の精霊からの罰。こうやって私は力を弱められて元の氷に返されるのよ」 トトは、このやさしい女の子のために何か助けになりたくなった。 「それならぼくからも冬の精霊に、許して下さいってお願いしてみるよ」 「本当?ありがとう。でもこの家の中には冬の精霊は入って来ないわ。家の外、吹雪がない所までいかなければいけないの」 「わかった。じゃあ、ちょっといってくる」 そう言ってトトは家の外に飛び出していった。家を出るとそこは相変わらず強い風と雪だったが、こころなしか嵐が弱くなっているような気がした。
by stafy77
| 2006-05-03 00:00
| ひとりごと
|
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