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「春を探しに」昔書いたお話-4(ミュージックボールをモチーフにして…)

その4です。
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春をさがしに1
春をさがしに2
春をさがしに3
春をさがしに4



「ありがとう……。一生忘れないわ」

「うん」

「そうだ。私はいかなくちゃ行けない所があるの。『春の泉』に」

「ぼくも一緒に行くよ」

 雪の魔女は少しためらうような顔をした。

「いえ、あなたは……。でも私は今は少しでも長くあなたと一緒にいたいわ。自分の気持ちに嘘はつきたくないもの」

 そして、一つ心を決めたように

「わかったわ。私の手をつかんで、目を閉じて」

 トトは言われるとおり、シルファの両手をぎゅっと握る。

「これでいいかい」

 二人をスターダストの輝きに似た光が包み込む。

 そして、トトが目を開けると、眼前には湯気を上げる温泉が広がっていた。 こころなしかシルファは少し、寂しそうだった。

「ここが『春の泉』よ。春の喜びはここから始まるの」

 シルファは一歩温泉の方に足を踏み出す。細い体がぐらりと揺れた。

「あぶない!!」

「だいじょうぶよ。……春の精霊さま、私です。雪の魔女が参りました」

 彼女の呼びかけに周りの空気が揺れ、一つの像を空中に描き出していき…やがて、それは美しい女の人となった。

「そなたは、雪の魔女ですか。冬の間、ごくろうさまでした。心から感謝いたしますわ。では、こちらへどうぞ」

「春の精霊さま、最後に1つだけよろしいですか。ここに、今まで私を助けてくれた人間の子どもがいます。私の大切なお友達です。彼を、家まで返してあげたいのです」

「では、何か自分自身のものに魔法をかけなさい。その力はそなたが消えても残るでしょう」

 トトは一生懸命何かを言おうとしたが、二人の会話はどこか遠い所で行われているみたいで、声にならなかった。

「この私のコートに、雪の結晶の魔法をかけましょう」

「わかりました。では、私、この春の精霊から、二回目からは魔力を封印する魔法の球をプレゼントしましょう。この中にコートを」

 雪の魔女が何か小さくつぶやくと、コートはきらきらと輝く一かけの雪の結晶となって球の中に吸い込まれていった。

「トト。あなたにこれをあげるわ。一回振れば、家に帰れるはずよ」

「でも、君は……」

「雪の魔女は春の精霊の力で消えていく運命なのよ。今年はこんな時期まで雪が残ってしまってごめんなさい。明日から、春よ」

 シルファはトトに球を手渡すと、そのまま振り返らずにまっすぐ温泉に入っていった。トトにはシルファが泣いているんだなってわかった。トトは球をぎゅっと握り締め、雪の魔女が温泉の湯けむりの中で見えなくなるまでずっと立っていた。

 そして、全てが静まり返ってたった一人きりになってから初めて、トトは耳元でそっと球を振り、次の瞬間、もう自分の家の前にいたのだった。

「ただいまおかあさん」

「あらトト、ちょうど夕ご飯ができたところよ」

 トトはお母さんが作ってくれたおいしい夕ご飯を食べて、それからもう一度あの球を耳元で振ってみたのだった。

 おばあちゃんのお話はこれで終わりだよ。

 ルルは叫びました。

「わかった、その子がおばあちゃんのおとうさんなのね」

って。

 おばあちゃんはそれには答えず、ただじっと暖炉の火を見つめたままでした。
by stafy77 | 2006-05-04 06:47 | ひとりごと
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