6月の雨は柔らかく降り続いています。
通りの角のアジサイも静かに咲いておりました。 午前9時ちょうど。 アジサイにおちる雨のしずくたちは、一組の傘をさす男女を見つけました。 男は、女に何かいうと彼女に背を向けて立ち去りました。 彼女はうつむいて、涙をこらえているようでしたが、その涙も熱いしずくとなって、はらりとアジサイの葉っぱの上に落ちてゆきました。 一足先に落ちた雨のしずくたちは、悲しい気持ちになり、黙ってなみだのしずくを迎え入れました。 午前10時ちょうど。 この時落ちてきた雨のしずくは、小さな男の子がアジサイの近くを通り掛かったのを見ました。 彼は、お母さんに買ってもらった新しい傘が嬉しくて仕方がないのでした。 黄色の傘をくるくる回し、傘に落ちた雨粒は、一緒にダンスを続け、陽気な気分で傘の外。アジサイの葉っぱの上に飛び乗りました。真っ直ぐにアジサイに落ちた雨のしずくも、一緒に楽しい気持ちになりました。 午前11時ちょうど 落ちる雨のしずくたちは、小さなカタツムリが一生懸命アジサイの葉っぱを横切ろうとしているのを見ました。 カタツムリは、うまれてはじめての大旅行でした。 しずくたちは、「がんばれ」と励ましながらアジサイに落ちていき、カタツムリは葉っぱを通り過ぎてゆきました。 お昼ちょうどに雨は上がり、つかの間の青空が顔を出しました。 その雲の切れ目から、喉が渇いた一羽の小鳥がおりてきました。 小鳥は、一組の男女がアジサイの側にいるのを見つけました。 男は「ごめんね」といい、顔をあげた女性はようやく微笑みました。 小鳥は、彼等が9時にもそこにいたことはまったくしりませんでしたが、 アジサイの葉っぱにたまった、悲しみと幸せと励ましの入ったしずくたちを飲み干して、満足したのか、二言三言さえずって、また空に向かって飛んでゆきました。 その声に、二人はまた、にっこり相手を見つめました。
by stafy77
| 2006-05-20 08:42
| ひとりごと
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