スイレンの花の精たちは、時期が来ると、 毎朝、明るくなる時間に、その白やピンク色のやわらかい花びらを水面にひろげ、 お日様の光をいっぱいに浴びます。 そして夕方暗くなると、そっと花びらを閉じて眠りにつくのでした。 夜明けとともに目を覚ました花の精たちは、スイレンの花の中で 大急ぎで、花をひらく準備をします。 びろうどのような花びら一枚一枚をきれいに磨き上げ、ちゃんと花粉がついているか確認し 最後に、明るくなるとともに、少しずつ花を開いていくのが花の精たちの朝の日課でした。 この開き方も、全体がふわぁっと開くようにしなければいけないのでした。 その年、池には、つぼみの形からいつまでたっても花を開くことが できないスイレンの花がありました。 どんなスイレンの花の精でも、はじめて花を開くときにはかなり緊張をするものです。 もう花びらを開いている花の精たちは心配し、外から呼びかけました。 「おーい。外はとってもいいところだよ」 「温度も、明るさも十分!出ておいでよ」 しかし、つぼみの中の花の精は、なかなか出てこようとしませんでした。 そうして、何日か呼びかけを続けたあと ある日、、といっても、お昼近くなっていましたが、ようやくそのスイレンの花が開きました。 出てきた花の精は真上のお日様をまぶしげに見上げました。 「ずいぶんと寝坊しちゃったわ。それにしても、こんなに開くのが面倒なんて」 そのスイレン、よくよく見れば、今年初めて開くのにしては、 花びらは真新しくつやつやしておりますが、細かいお手入れがいい加減なようです。 まわりのスイレンはそれを見て言いました。 「大丈夫。明日はもう少し早く起きればいいし、朝の仕事も慣れれば上手になるよ」 しかし、翌日も、、その翌日も、、花の開く時間は変わりませんでした。 その花の精はお寝坊さんで、それに、あまり器用ではない面倒くさがりな性格でした。 夜だって、そのスイレンは池の端っこで街灯の光があたるところにあったのですが、 とにかく、終い支度を遅くになってから始めるものですから、寝る時間も遅いのでした。 お日様が沈んでも街灯がつくから間違えてしまう、というのが花の精の言い訳でした。 そんなスイレンを周りの花の精は、最初こそ応援していましたが、やがて、 「あの子はなにをしてもぐずでやる気ないのね~」と、 内心ちょっとバカにするようになっていました。 でも、当の本人も、一生懸命やっているのに、何で出来ないんだろうと思っていたのでした。 そして、また時期が過ぎ。 花の精たちは、少しずつ、今年の花を終わらせはじめました。 最後に花を閉じるとき、花の精たちは 「また、来年!」 と、とびっきりの笑顔で挨拶をして、仲間としばらくのお別れをします。 最後に咲いた花の精も、お別れする花の精たちに 「また、来年!」 と返事をするのですが、微笑み返してもらえないのでした。 誰にも喜んでもらえず、どんどん周りから取り残されて、 花の精は悲しくなりました。 ・・・いっそのこと、みんなと一緒に花を終わらせてしまいたい。 閉じた花の中でひとり、花の精は涙を流しました。 でも、最後に咲いた花は、また終わりの時期にはなっていないのでした。 そうして、またしばらく時期が過ぎました。 ある夜、スイレンの池のそばの道を、一組の親子が通り過ぎました。 「お母さん、スイレンってどんなお花?」 まだ、小さい女の子が聞きます 「スイレンはお水に浮かぶかわいいお花よ。ニンファっていって「水の女神」っていう 名前もついているのよ」 お母さんは答えました。 「わたし、スイレン見てみたいなぁ」 「残念。スイレンの時期はもう終わりだし、今は夜でしょ?スイレンは昼間しか咲かないの。また・・・」 また来年、と言おうとしてお母さんは言葉をとめました。 実際、その子と来年ここに来るのは、もう出来ないはずなのでした。 「見て!スイレン」 突然女の子が池をさしました。 そこには、今年最後のスイレンが、ただ一花、街灯の明かりに照らされて、 美しく咲いていました。
by stafy77
| 2006-05-25 00:00
| ひとりごと
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